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そんな原田を追い詰めるかの様に彼の周りに機銃弾が降り注いだ。その場に伏せて辺りを伺うと、村の入口から大型戦車が2輌向かって来ていた。
「嘘…だろ?」
手元には小銃と、いくつかの手榴弾しかない。戦車に立ち向かうにはあまりにも装備が貧弱すぎたのだ。原田は水を撒く様に広がる掃射を避け、砲弾の爆焔をくぐって先頭の戦車のハッチを開けた。
「ほら、お歳暮だ!!」
ハッチに手榴弾を放り込むと、凄い勢いで近くの死体の山へと隠れた。
ドォム!!
鈍い音を立てて戦車の砲塔が吹き飛び、停車する。
しかし、2輌目の戦車は止まる様子なく…いや、更にスピードを上げると前の戦車を踏み潰してグングン近づいてくる。
原田はとっさに死を覚悟した。しかし、敵は原田の短すぎる人生を振り返る隙も与えずしきりに攻撃を仕掛けてくる。
「錦司令には悪いことしたなぁ……母さん!!」
グッと歯を食いしばり、敵に自分を撃てと言わんばかりに大の字で仁王立ちしたその時、一瞬戦車が大きく歪み、そのまま跡形もなく吹き飛んでしまった。
「………っ!」
「やはり、戻ってきて良かった」
後ろを振り返ると、さっきコンクリート陣地で別れた175警の少尉ではないか。彼は得意気に米軍のバズーカを担いでいた。
「しょ…少尉!!」
「うん、何か胸騒ぎがしてな、どうせ行く当てもないし、戻る事にしたんだ」
原田は恐怖から一気に解放された為かボロボロと涙を流し、鼻水とで顔をぐちゃぐちゃにして少尉に抱き付いた。
「良かった…良かったぁ…うぅぅ……」
「確かにお前は助かったがな、ほら、お客さんだ」
今度は戦車の残骸を縫って1個小隊程の歩兵が姿を現した。原田は鼻水を拭くと、少尉に囮を頼みジャングルへと消えていった。
「『僕が…ジュル……上からやります…ジュルジュル…ですから少尉は、奴らを引き付けてくだざい……』か、本当に大丈夫なんだろうな」
その頃原田は適当な木を見つけると、まるで猿の様に登っていた。そして半分位までいくと、すぐさまボルトを引いた。
鉛の塊が次々と敵の額にめり込んでいく。原田には余りにも近すぎたのだ。少尉が射撃を始める前にその正確な狙撃で大方を撃ち倒してしまった。
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