異能力者

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-1-  “あの少女”に出逢ったのは、つい先程の事である。  エトナと呼ばれる村から北へ、見通しの良い山道を通る途中に、小さな泉のある森へと通じる脇道があるのだが、俺がその森へ、小休止の為に立ち寄った時に、不思議な光景を目にしたのだ。  不思議と言っても、端から見れば、ただの日向ぼっこにしか映らないのかもしれないが、俺にはそれが神秘的に映ったのである。  癖のある、ブロンド――肩まで伸びているか否かの長さの髪に、丸々としたマリンブルーの瞳、そして、あどけなさを強調するかのような童顔に、成長途中と思われる未発達な肢体を持つ少女は、キョトンとした表情で俺を見つめたまま、泉の向こう側で佇んでいた。対する俺も、声を掛ける気にはならなかったが――仲間から冷静沈着と称賛されている思考が、一時的に停止してしまっていた。  今、思うと、滑稽な話である。名前も知らない少女の事ではなく、俺自身の行動が……だ。  結局、何もする事なく、ただ見つめ合った後、俺は山道脇の森を後にした。  そして、今は、銀の長髪を肩の辺りで縛り、穏やかそうな細目にハーフフレームの眼鏡を掛け、面白がるように口許を緩ませる長身の――黒のロングコートに黒のスーツを纏った、黒ずくめの男と共に、先ほど述べたエトナの村を目指している。  四季の存在しないこの世界――アスカージュに於いては、大陸ごとの気候差が激しく、特に地表から離れていくと、温度は急激に下がってくる。俺も、今は仲間の男と同じように、黒のコートを纏っていた訳だが、現在いる場所は、下りの辺りである為、気候、気温共に安定傾向にある。故に、先ほど見かけた少女は軽装だったのだ。
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