また、いつか

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日が落ちる。 私は国中の民が見守るなか、たった一人、ゆっくり塔を登っている。震える足を必死に動かし、踏みしめる階段はひんやりと冷たかった。 恐い。嫌だ。行きたくない。 けれどそれを言うことは許されない。国中の人はみんな嬉しそうに微笑んで、私が塔を登りきるのを心待にしている。 塔の一番上に立ち、沈み掛けている夕日が完全に姿を消したら…… 私の命は、そこで終わり。 この世界は、私の暮らす風の国と、樹海を挟んだ向こう側にある闇の国とで出来ている。風の国に住む精霊と、闇の国に住む魔族。この世界にはその二つの人種しか生息していないのに、その二つはとても仲が悪い。 何故なら。 魔族は精霊を食し、精霊は魔族を薬の材料とするから。 どつちもどっち。お互い様。 でも互いに互いを絶対の悪としているから、二つが相容れることなどない。 戦争が起きないのは間にそびえる樹海のおかげ。けれどそれでも、精霊は魔族に怯えている。単純な戦闘力で言えば、魔族の方がかなり上手だ。迷い混んだ魔族をよってたかって殺すのならば容易いが、総動員で攻めてこられたらひとたまりもない。 だからこうして祈るのだ。 攻め無く穏やかに暮らせるようにと。 だからこうして塔を登るのだ。 そのために、生け贄を一人差し上げますと。
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