Prologue.「歪んだ運命の彼方に」

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それを言葉で表現するのであれば、蹂躙という単語が尤も似つかわしいだろうか。 見渡す限り、この東ドイツの大地を埋め尽くさんばかりの異形が大挙して押し寄せ、ベルリンの街を蹂躙している。 『総員傾注(アハトウング)!これより我々は最後の任務に当たる!各機、死んでもベルリンを守り抜け!』 オリーブドラブを基調とした第一世代型戦術機、Mig-21「バラライカ」で構成される戦術機中隊を指揮するブロンドの女性が、精一杯の強がりであり、文字通り"最後"の命令を発した。 諦めてはいないが、それが空元気である事は誰の目にも明らかだ。 今正に滅びようとしているこの国を救える手立てはない。 彼女――アイリスディーナ・ベルンハルト大尉が率いる東ドイツ最強の戦術機中隊、「黒の宣告」であってもこの状況を覆す事は不可能だろう。 管制ユニットの中で、赤毛の青年――テオドール・エーベルバッハ少尉は郷愁と怒り、そして悲哀と諦念が綯い交ぜになった感情を抱きながら過去を思い返していた。 ――自分達がやれるだけの事はやった。ただ、この滅亡という結末は自分達が予想しているよりも、遥かに早く訪れてしまった。ただそれだけの、大きな手違い。 今、終焉という巨大な運命を前にしては国家保安省(シュタージ)もNVA(国家人民軍)も関係ない。 全てが等しく瓦解し、蹂躙されていく。 抗う事すら無意味に思えるような、理不尽なまでの慈悲無き暴力。
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