Prologue.「歪んだ運命の彼方に」

3/6
前へ
/43ページ
次へ
申し訳程度にユーラシア連邦から送られてきた増援のモビルスーツ隊が異形の群れに飲み込まれ、一秒と立たずに形を失って爆散する。 皮肉な事に今、「黒の宣告」は自分達に下されようとしていた。 一人でも多くの国民を助ける為、アイリスディーナや"彼女"の思いを無駄にしない為にも、まだ倒れる訳にはいかない―― 「うおおおおおッ!」 テオドールは雄叫びを上げて、迫り来る異形――BETAの群れへ突撃砲の斉射を浴びせる。 空薬莢が弾き出される音が、鋼のドラムを奏でるように響く。 だが、遠雷か地鳴りのような轟音と共に迫り来る敵の姿は、一向に減る気配はない。 東ドイツ軍が保有するモビルスーツ……オリーブドラブに塗り替えられたMS-06J「ザクⅡ」の部隊がBETAの前衛である要撃級と突撃級の進行を食い止めようと先行し、二分と立たずにスクラップと化していく。 自分達の背後には、東西のドイツを隔てる巨大な壁――ベルリンの壁が屹立している。 ベルリンの壁は煌々と炎の明かりに照らされながらも尚冷たい。 (弾薬、推進剤は残り二割――覚悟を決めるしかない) 『各機、ここで奴らを食い止めるぞ!突撃に移れぇぇぇっ!』 アイリスディーナの号令と共に、テオドールを含む8機のMiG-21「バラライカ」が低空で跳躍を開始、建造物を盾にしながらBETAの隊列に突撃していく。 隊長機であるMiG-21PF……アイリスディーナ機は半壊状態の他目的装甲と残弾残り少ない突撃砲を携え、鋭角的な奇跡を描きながら先陣を切って要撃級の群れを薙ぎ払う。 リズムすら感じられるバースト射撃でアイリスディーナは的確に要撃級を駆逐していくが、次から次に湧き出すBETAの数は減ったように感じられない。 「俺達も突っ込む!カティア、ついて来い!」 テオドールは自機の背後に付き従い水平方向に跳躍している僚機へ指示を下す。 『――了解です!』 茶髪をポニーテールに纏めた、小柄な少女の童顔が視界に浮かび上がる。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加