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数日後。相も変わらず蓮は竜之介の店に入り浸っていた。
「あーつーいー…」
「ああ、もう!夏に暑い暑い言うんじゃねえ!こちとら働いとるんじゃ!」
虚ろな目で蓮はぼんやりと竹団扇を扇ぐ。
蒸し暑い。やっぱり京都は暑すぎる。
「ったく。お前、感謝料として、店周りの掃除でもしやがれ」
そう言うと、竜之介は蓮に箒を突きつける。
「竜之介!!喋ってる暇あったら外周り掃いてきな!」
お蘭が調理場から叫ぶのを聞いて、蓮はひらひらと手を振った。
そんな蓮を悔しげにひと睨みすると、竜之介は渋々と暖簾を潜って玄関を出る。
竜之介に店の周りの掃除を任せられるくらいに、店の営業は通常運行になった。
すっかり夜にも人が店に行き来している。
「あ!」
外から竜之介のダミ声のような叫びが聞こえた。
「なんだこれ。人の店に落書きなんか張りやがって」
竜之介は店の前に仁王立ちすると、紙を剥がした。
「“此所 勝母の里”?気味悪ぃな」
それを聞いて、蓮は小さく笑った。もう、そんな呪符を使う必要はない。
「竜之介さん。只の落書きですよ。捨ててもいいんじゃないですか?」
中からそう声を掛けると、ずかずかと竜之介は店に入り、くしゃくしゃに丸まった紙を蓮に見せた。
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