29人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、なんでもよ。車輪らしいんだ」
「………車輪?」
蓮はそう聞き返すと眉を潜めた。
相変わらず竜之介はせかせかと手を動かし続けている。
車輪と言えば、人力車などか?
否、なら車輪などとわざわざ言わない。
「毎夜毎夜、ここら界隈で車輪の音だけが聞こえるらしんだ。それも、恐らく、片輪だけ」
「車輪の…音だけ…。片輪…」
「そう。それでよ、夜な夜なうるせぇもんだから、どやしに行った奴がいるみてぇでよ」
竜之介はそこで話を区切ると、手を止めて蓮を見た。
店内はがやがやと騒々しいはずなのだが、変に静けさを感じた。
「なんだ。竜之介さんがどやしに行ったんではないんですね」
ふとけろりと拍子抜けたように蓮は口を開いた。
「なんだとはなんだ。わりいなぁ。俺じゃなくて」
「いえ、よかったです」
なにか考え込んで、それだけ言う蓮に、竜之介は違和感を感じながら首を傾げた。
「で?続きは?あるんでしょう?」
蓮は視線を竜之介に戻すとそう尋ねた。竜之介が話を区切ったところから見るとまだ何か、ある。
最初のコメントを投稿しよう!