輪入道─ワニュウドウ─

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「いや、なんでもよ。車輪らしいんだ」 「………車輪?」 蓮はそう聞き返すと眉を潜めた。 相変わらず竜之介はせかせかと手を動かし続けている。 車輪と言えば、人力車などか? 否、なら車輪などとわざわざ言わない。 「毎夜毎夜、ここら界隈で車輪の音だけが聞こえるらしんだ。それも、恐らく、片輪だけ」 「車輪の…音だけ…。片輪…」 「そう。それでよ、夜な夜なうるせぇもんだから、どやしに行った奴がいるみてぇでよ」 竜之介はそこで話を区切ると、手を止めて蓮を見た。 店内はがやがやと騒々しいはずなのだが、変に静けさを感じた。 「なんだ。竜之介さんがどやしに行ったんではないんですね」 ふとけろりと拍子抜けたように蓮は口を開いた。 「なんだとはなんだ。わりいなぁ。俺じゃなくて」 「いえ、よかったです」 なにか考え込んで、それだけ言う蓮に、竜之介は違和感を感じながら首を傾げた。 「で?続きは?あるんでしょう?」 蓮は視線を竜之介に戻すとそう尋ねた。竜之介が話を区切ったところから見るとまだ何か、ある。
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