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「すみませんねぇ!お兄さん!この子ったら」
「だって母ちゃんが!」
「だってもくそもないの!」
女将はそう言うと菊次郎を小突いた。
いたっと声を挙げて菊次郎は頭を擦る。
蓮はただその様子をぼんやりと見ていた。
「気を悪くせんでください。この子、しょっちゅうお客様の部屋に忍び込んでは遊んでもらいたがって…。うちは旦那がいないもんですから、菊次郎にもこの歳で仕事をやらせているので」
「いえいえ。少し驚いただけです」
蓮は必死に謝る女将ににこりと笑った。
部屋の襖が開きっぱなしなせいか、食欲をそそらすような焼き魚の匂いが充満していた。
「………なんか、焦げ臭くないですか?」
相変わらずにこりとしたまま、蓮は問い掛ける。
女将は宙を見て、臭いを嗅ぎだした。
そして、真っ青になる。
「いやぁぁあああああ!焦げてる!」
そう叫ぶと慌てて部屋を飛び出した。
バタバタと階段を降りる音がする。
蓮は菊次郎と顔を見合わせると首を傾げて苦笑いした。
それを見計らったかのように階下からは怒鳴り声が聞こえる。
「菊次郎!!程々にして降りてきなさいよ!!」
「はぁぁぁあい!」
菊次郎は階段の前まで行くと、下に向かって返事をした。
そして、くるりと後ろを向く。
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