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「ん?」
蓮は口角を上げたまま、目をぱちくりと瞬きした。
「おいらの父ちゃんね、侍だったんだ。もう、おいらがちっちゃい頃にいなくなっちゃったけど。おいら、父ちゃんみたいな侍になりたいんだ。だから」
───そうか。
「だから僕の刀が気になったんですね」
菊次郎は真っ直ぐ蓮を見つめて頷いた。
蓮は優しく微笑む。
そうか。この子は、親の、尊敬する親の背を追って──…。
「でも僕は侍ではない。君の言うように浪人に近い存在です。それでも良ければ、刀、もう一度握ってみますか?」
菊次郎はきらきらと目を輝かせると何度も頷いた。
刀を持ち上げると、ずしりとしたその重みに菊次郎は、再び顔を綻ばす。
「おいら、いつか、絶対に侍になってやるんだ」
「頼もしいですね」
蓮はふわりと笑うと、菊次郎の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「お、おいら、母ちゃんを手伝ってくる!ありがとう、お兄ちゃん!」
照れたように笑いながら、菊次郎は手を振って部屋をでた。
親子って、良いもんだな。
そうふと頭に浮かべながら、ひらひらと手を振り返した。
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