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「あの女の魂を、悲痛と苦痛で旨くするのだ。嗚呼。今の女は一際旨いに違いない」
そう気味の悪い笑みを浮かべると輪入道はごろりと再び横に転がり、蓮の刀を避けた。
蓮は宿の外を出て、輪入道と対峙したままだ。
蓮が降り下げれば輪入道は転がって避ける。
輪入道の体力は一向に減らない上に、これではキリがない。
ごうごうとした光は地面の小石に影を作る。
蓮は輪入道と間合いを取り、再び向き合う形となった。
その時だ。
「お兄さん!」
玄関から女将が覗いている。
手には水をいっぱいに張った桶を持っている。
蓮は冷や汗をかいた。
「出てきちゃ駄目だ!こいつは貴女の命を狙っている!」
そして、そう叫んだ瞬間。この時を待っていたかのように、輪入道は一直線に女将の元へ転がっていった。
ぐるぐると回る炎の車輪の中で気が可笑しくなった様に笑う男の顔。
真っ青になる女将。
「このっ…!」
後を追う蓮は間に合わない。
輪入道が女将と接触すると思われたとき、ばしゃりと水音が鳴り響いた。
輪入道の周りを覆う炎がしゅうっと音を立てて消えていく。
全ての炎が消えたとき、女将の姿が見えた。
手に持っていた桶の水を全てかけたらしい。
車輪からは水がぽたぽたと垂れ落ちている。
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