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見ると、輪入道の男の額、そして、女将の腹を貫通して、車輪の本体の中心部と、青白い刀が三つを串刺しにしている。
「な、お兄…さん…」
女将は信じられないようで、声を絞り出した。
「お前!人間だろう!?」
輪入道は予想外の出来事に焦りを隠せない。
妖だからか、完全に動けないだけで、まだ息がある。
まさか、蓮が女将ごと斬るとは思っても見なかったのだ。
「人間ですね。少し女将さんには酷いことをしてしまいました」
蓮は申し訳なさそうに眉を寄せた。
もう女将は言葉を失っている。
「貴方は勘違いをしている。女将さんが人質なら私は斬らないと。でも、貴方はこうでもしない限り動けなくなる状態は作れない」
「だからって…!」
「貴方の敗因は、僕を買い被り過ぎたことだ」
蓮は刀をかちゃりと握り直す。
「やめろ…!俺が何をした!」
「菊次郎くんの、夢を叶える足を奪った」
女将はそれを聞いて、辛そうに眉を寄せた。
「私ごと、斬ってください」
涙を流してそう懇願する女将に蓮は小さく笑うと頷いた。
そして、額を貫かれた輪入道に視線をずらす。
「もう一つ、敗因を教えましょう」
「やめろ!この女がどうなってもいいのか!」
輪入道は今度こそ本当に喚き散らすが、蓮は容赦なく続ける。
女将は意を決したように目を瞑った。
「貴方のもう一つの敗因は、僕の刀の性能を知らなかったことだ」
そう言うと、蓮はそのまま刀に力を入れ、上に向かって引き上げた。
「逢魔が刻の魑魅魍魎よ。如月と安綱の名によって常世の國へ還られよ」
ずしゃっと肉が斬れる音が響いた。
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