輪入道─ワニュウドウ─

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少しの間を置いて、ごとり、ごとりと重たいものが二つ落ちる音がした。 そして、次に、どさりと人の身体が崩れ落ちるくらいの音がする。 蓮の足元に、真っ二つになった男の顔の片方が転がってきた。 蓮はただそれを見つめる。 「…なんで…私、生きて…」 もう一つの崩れ落ちる音は女将が地面にへたりこんだ音だった。腹から上が真っ二つに引き裂かれたわけではなく、普通に生きている。 首が離れて、跡などは残っているが、傷はこれといってない。 蓮は自分の手を見てぽかんとしている女将に視線を移す。 そして、しゃがみこんで視線を合わせた。 「すみません。酷いことをして。怖い思いをさせてしまいました」 「私…斬られて…」 へたりこむ女将の後ろでは、首を伸ばしたまま輪入道が倒れている。 「ええ。実は、僕の刀は人を斬らないんです」 「え?」 女将は頭がまだ回っていないのか、わけがわからないといったように見てくる。 「正確に言うと、逢魔時からは、先程のような妖だけを斬るようになる刀なんです」 そう言って蓮は青白い光を放つ刀を女将の手元に乗せた。女将はすぅーっとそれをなぞる。 「不思議…」 「僕もあまりよく分かってないんです。でも、人を守るためなんじゃないかな。と思っています」 蓮はその上から手を重ねて微笑んだ。
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