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ふいに老人は口を開いた。
起きていたのか。そう思ったが、青年はその微かな動きを見逃さなかった。
「………蓮…蓮」
そう名を呼ぶのである。
「はい。父上。ここに」
青年は今にも崩れ落ちてしまいそうな、老人の冷たい手を握った。
「蓮。如月家の代々の仕事はわかっているな」
「はい。今まで僕も同行していたから」
まるで、最期の言葉のようである。だが、青年は取り乱さない。
わかっているのだ。
死期が迫っていることは。寿命だ。
老人は安心したように口角を上げた。目元に皺が寄る。
「逢魔時になれば、妖共が動き出す。そうすればお前が今度はこれで、皆を守るのだ」
途切れ途切れに話すと、先程まで床に臥していたとは思えぬ力で起き上がった。
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