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「素敵な刀ね」
「そうかなあ」
蓮は困ったように笑った。
艶のある髪がさらりと揺れる。
「お仕事なの?」
「うーん…」
女将の質問に蓮は少し考え込んだ。そしてこう言って笑った。
「拙い只の、浪人ですよ」
そして、女将も同じように笑った。
「浪人も良いものね」
蓮はしゃがみこんだままにこりと微笑んだ。
「あの子ね、菊次郎。侍だと思い込んでるのよ。私の夫」
「侍じゃ、ないんですか?」
蓮は菊次郎に聞いた話を思い出した。
自分は侍になりたい。そう溌剌と語っていた。
女将はゆっくりと首を横に振った。
「実際は幕府に切られた只の浪人。食いっぱぐれたのよ。で、出ていった」
女将は自嘲気味に笑った。
だから、浪人は駄目だと菊次郎に念を押していたのだ。
「でも、悪くないわ!」
女将は一変して明るく笑うと玄関の外から少し明かりが見えた。
日の出だ。朝が来てしまったようだ。
戦いにも終止符がついた。この町もまた夜も賑わうようになるだろう。
「さ。行きますか」
「きゃっ」
そう言うと、蓮はひょいと女将を抱き上げ、菊次郎のいる、奥の部屋へ消えていった。
蓮が姿を消した後、部屋に残された真っ二つの輪入道は朝日に照らされ、青白い光になり、やがて跡形もなく、消えていったのだった。
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