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「お前か!」
眉間に皺を寄せ睨み付けてくる竜之介にきょとんと一瞬目を丸くすると蓮は小さく笑って言った。
「まさかぁ」
「ったく」
竜之介はそうぶつぶつと呟くと紙をまたくしゃくしゃに小さく丸めて外へ投げた。
その様子を見て、可笑しそうに蓮は笑う。
「すみませーん!!」
店の暖簾から女の人の声が聞こえた。蓮は暖簾をちらりと一瞥する。
「はいはいはーい!」
お蘭は厨房から返事をするが、手が離せないのか直ぐには来る気配はない。女性は店内に入ってあたりをきょろきょろと見回している。
「あの…ここに、如月 蓮という色白の…あ!」
そう言いかけた途中で蓮とばっちり目があった。蓮はにこりと笑うと頭を下げた。
来ていたのは、この前の女将であった。
「お兄さん、あの後ふっと姿を消しちゃったから、ここにいるって聞いて」
お蘭が来る前に蓮を見つけてしまい、女将は一直線に蓮の元へ向かう。
「蓮坊!お前…とうとう人妻に手を出したのか!」
そう叫んでいる竜之介のことはさらりと無視して蓮は目の前に立っている女将を見上げた。
「よくわかりましたねぇ」
「や、お兄さんここらでは有名みたいよ」
「え?」
蓮は笑ったまま首を傾げた。
何もしていないはずなのだが。
「いっつもフラフラしてる、竜之介の所の“プー太郎”って」
女将の言葉に、蓮は複雑な気持ちで困ったように笑った。
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