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「プー太郎だってよ!」
竜之介は笑いながら蓮を指差すがまたもや完全に無視される。
「今日はどうしました?」
無視された竜之介は、面白くなさそうに、客席に座って足を投げ出した。
「ああっ!そう!菊次郎なんだけど…」
あの後、菊次郎は命こそは助かったが、出血多量により、高熱で生死をさ迷う形となった。
あとは気力次第であった。
「菊次郎、意識は戻ったわ!」
「それは、よかった…」
そうは言ったものの、菊次郎の夢は、立派な侍になることである。
その、足を失っている。
それで、果たして彼は絶望せずに、生きていけるのだろうか。
「菊次郎くん、足が…」
「うん。でも、大丈夫よ!菊次郎は。この前の蘭学医のお医者様が、何年かかるか分からないけど、異国へ渡って代わりの足になる、義足なるものの知識を身に付けてきてくれるらしいの」
「じゃあ、菊次郎くんは」
「諦めてないわ」
女将は本当に嬉しそうに笑った。
「今は、自分は人より不利な分、人より多くのことを始めなきゃいけないって、腕だけでずっと竹刀振ってるわ」
「きっと、立派な男になりますよ。彼は」
蓮はふわりと笑みを溢した。
部屋で一人、汗をかきながら竹刀を振る、菊次郎が目に浮かんだ。
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