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「菊次郎の薬を貰いにこっちに来たついでに、それだけ言いにきたのよ!本当に、ありがとう」
「そうだったんですか。こちらこそ、すみません。それから、わざわざありがとうございます」
蓮は頭を下げた。
もっと早くに気がついていれば、菊次郎を、もしかしたらあんな目に遭わさなくて済んだかもしれない。
それだけが頭の中を何度も過っていた。
でも、女将の笑顔と、菊次郎の前向きな気持ちを聞いて、救われた気がした。
「じゃあ、私、そろそろ行きますね。また遊びに来てくださいな!」
女将は快活に笑うと、店を出ていった。
蓮は頬が緩むのを感じた。
菊次郎も、彼女も、きっとこれからまだまだ困難はあるが、乗り越えていくのだろう。
そして、強く、強く。生きていくのだろう。
───心配はいらないな。
蓮はふっと口角を上げた。
「あら。さっきいらっしゃった方は帰ったの?」
やっと厨房から顔を出したお蘭が蓮に尋ねた。
「ええ。良い、報告をしてくれました。あっ!」
蓮はお盆の上の出来立ての蕎麦に気がついた。
「待たせてしまった分、用意したんだけど…。如月さん、たべちゃって」
お蘭は目を細めてにっと笑うと、蓮の目の前に蕎麦を置いた。
蓮は唾を飲み込む。あまり何も施されていないツユと麺だけだが、それで良いのだ。
「いただきます」
麺を啜ると、蓮はふと、輪入道を思い出した。
「うん。美味しい」
蓮はにっこりと笑って頷いた。
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