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相変わらず蒸し暑い日々は続き、輪入道の件から、そう月日は経っていなかった。
かんかんと容赦なく降り注ぐ日差しに憎しみまで感じてしまう。
蓮は外へは出まいと、屋敷に篭って涼んでいた。
畳の上で転がり、天井を眺める。
蝉の鳴き声、草木の揺れる音。それ以外は何も聞こえない。
少しばかり人里離れた所に位置しているため、人影さえないのだ。
広すぎる屋敷を一人でもて余している蓮は、ただ何をするわけでもなく、ゆったりとした時を過ごしていた。
縁側の障子を開け放っているが、風はあまりない。
───あ。
蓮はぴくりと耳を動かした。
しかし、立ち上がる様子もなく、寝転がったままである。
───来たな。
そう思った刹那。
「若旦那ー!!」
耳に響く、通りの良い声が聞こえた。縁側へ向かい、庭を直進してくる人影が、二つ。
一人はぶんぶんと大きく手を振っている。
そして、もう一人はそこで小さく一礼した。
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