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蒸し暑い気候の中のそよ風というものは、どうしてこんなにも眠気を誘うのだろうか。
静かな畳でうっかり目なんか瞑ってしまえば、後は眠りに落ちる一方だ。
「……い…」
微かに声が聞こえる。夢だろうか。死んだ父の声に似ている。
「…い……おい!」
「んがっ!?」
パシンと響きのよい音と脳天にずしりと響く痛みで蓮は目が覚めた。
顔からずるりと本が落ちる。
蓮は大きな二重瞼を眠そうに半分開けた。
「なんですか。痛いなあ」
目の前を見て、大欠伸をすると、武士には珍しい総髪頭をばりばりと掻く。
「なんですかも何もねぇ!ここぁ俺の店だ。昼時にいつまでも座敷で寝られちゃあ営業妨害もたまったもんじゃねぇぜ」
蓮が屈伸をし、変に固まった身体中を伸ばしている間にも目の前の大男は青筋を浮かべながらため息をついている。
「だいったいお前は毎日毎日毎日毎日、ふらふらふらふらと。ちったあ働けこのプー太郎!」
そう目の前で怒鳴るも虚しく、蓮は大欠伸。
「聞いてんのか!」
「いいじゃないですか。僕と竜之介さんの仲なんだから」
蓮はそう言うとにこりと笑った。くっきりとした目鼻立ちに、色白の顔。細身の身体は中性的な印象を受ける。
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