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「なあに笑ってやがんだ」
「いたっ」
ごつりと再び脳天に衝撃が走った。一々手を上げるのはやめていただきたい。
「厭だなあ。竜之介さん、僕のようなか弱い人間をいじめないでください」
蓮はそう言うと頭を擦った。だが、回りを見てみると確かに昼時だ。少しずつ客足が増えている。
「確かに悪かったよ。蓮坊はもやしのプー太郎だもんな。ほーら退いた退いた」
竜之介は蓮を座敷から立たせるとさっさと机を拭いてしまう。
プー太郎プー太郎と言うだけあって、竜之介は良く働く男だ。
鋭い目付きと上がり眉の強面、今にも暴れだしそうなたくましい体つきとは裏腹に手先は器用だ。
それに、面倒見も良い。
竜之介の人柄の良さで、彼を慕う人も少なくない。
だからいつも、小さいながらも、彼の店は客行きが良い。
「仕方ないなあ。しかし、ここ最近、昼時になるとえらく人が多いですね」
なんて言いながらも再び席に着き、店の様子を見てみる。もう空きの席がなく、店内は満席だ。
確かに、ここの蕎麦は絶品だと巷でも有名であったが、ここ数日、やけに人が多い。
いつの間にか店内ではお蘭が走り回っている。
「ああ。それが、夜になるとぴたりと客足が止むんだ」
「夜になると?」
蓮は眉を寄せる竜之介を見上げた。夜になると客足が止むとはどういうことなのだろう。
何か訳を知っているようだ。
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