それはまだ始まる前の事

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『私がこの地に平和をもたらしにやって来たと思っているのか。そうではない。私がたずさえてきたのは――――』 夜の闇を仄かに明るい蝋燭の光か照らしている。 わざわざ現代技術の代表格『電灯』を、あるのに使わないというのは、この薄暗い部屋の主が伝統を重んじる人間であると同時に、これからする行いが内密機密であることにも起因している。 部屋は良く見れば、とても良くできた至高の芸術作品であることが理解できる。 床は大理石で出来ており、蝋燭の光が時折キラッと反射されて、宝石がちりばめられているかのような錯覚を受ける。 壁は一面色彩豊かなフラスコ画が装飾されており、天井には豪華絢爛でありながら力強い雰囲気を秘めたシャンデリアがぶら下げられている。 そして、壁にあるアーチ型の窓から見える広場の中央には、縦長の歴史あるオベリスクがライトアップされていて、夜中にも関わらず広場は明るい。それも当然、この広場は世界でも最も有名で、最も歴史があり、そして最も聖なる場所であるからだ。 厳かで神聖な彫刻が施された机に、一人の男が座って電話をしていた。それもただの電話ではなく国際電話である。
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