それはまだ始まる前の事

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『ったく、日本人(ジャパニーズ)はさっぱり訳分かんねぇ人種だなぁオイ。やれクリスマスだやれ七夕だ、宗教のサラダボウルってのはヨハネの奴にしちゃあまあまあなたとえじゃねーの? マジである意味見てて度肝抜かれるぜ?』 机に乗っかっている固定電話の受話器から聞こえてくるその声は、およそ人間らしい温かみに欠けていた。あるのは、これまた人間らしい嘲りを含む声。薄ら笑いをするような口調で、その声の主は任務先の不平不満を無遠慮に垂れ流す。 『あ、やっぱ前言撤回、ヨハネのユーモアセンスもまだまだだ。ありゃサラダボウルっつーよりか、ミックスジュースの失敗作だ』 「かく言うお前だって神を信じようとはしないではないか。言っておくが、日本は憲法において『信教の自由』を規定している。我々が口出しする事柄ではない」 受話器を手に、初老の厳かな風格を携えた男が静かに諭す。しかし、受話器の向こう側の声の主、遥か一万キロメートル離れた極東の島国の何処かに居る男には通じない。 『教皇さん、いや、《ペトロ》よぉ。俺は嘘臭ぇ神なんざ信じてねーんだよ、はなっからな。だからクリスマスなんざ祝わねーし、七夕なんざも飾らねぇ。神の奇跡も大罪も天国も地獄も天使も悪魔も伝説も聖書も教会も聖人も神父も人間も、ずぇーーんぶ、微塵も信じちゃいねぇよ。だからあんたの吐く説法ももちろん、あんた自体信じてねぇ』
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