それはまだ始まる前の事

4/24
前へ
/318ページ
次へ
自分の力に絶対的自信を持つ者の声音。受話器の向こうの男の声には、はっきりとそれが篭っていた。良くも悪くも、もはや馬耳東風である。 「……その頑なまでの世界に対する不信は、もはや敬意すら抱くな。とにかく忘れないで貰いたいのは……いや、とやかくは言うまい。今何を言ったところで、信用して貰えぬのだからな」 『オイオイ、拗ねてんのかい? 似合わねー。つか、任務内容とか忘れてねーよ。SELNの奴らに苦い顔させといて、ついでに例の《遺産》にも要注意だろ? んなの、俺の『金剛の硬槌【ヴァジュラ】』の力がありゃ十二分だっつーの。……余計な茶々は入れんなよ?』 「……君が軽率な行為を行わない限りは、私は何も手を出さない。それだけは約束できる」 『そうかい。安心はしないけどな。んじゃいつも通り偉そうに玉座に踏ん反り返って待っときな、教皇さんよ』 そう男が言い捨てた後、接続は遮断された。もちろん、一方的に通話を打ち切ったのは今日本に滞在中の声の主だ。ツーツー、と単調な電子音だけが受話器から聞こえる。ゆっくりとそれを本体に戻し、ため息を吐き出す。 「あんまりため息ばっかついてたら老けるぜ。ジジイ」 .
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加