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アンデレは気乗りしない様子のまま、ハイハイ、と投げやりな返答をした。
「肯定の返事は一回だ」
「何処のお父さんだよ!?」
そう軽くツッコミながら、彼女は手元の手渡された航空機のチケットを一瞥した。
途端、たっぷり数秒ほどフリーズする。そのまま、恐る恐るというべき速度で顔を上げて、目の前の教皇を凝視して、
「…………あのさ、」
「何かね?」
「これ、出発日時まで…………あと2時間じゃん!」
「いかにも」
キッ、と歯軋りしながらアンデレは目の前の元凶を睨みつけると、急いで身を翻して部屋を出て行った。恐らく一旦自室に戻って旅の準備をするつもりだろう。チケットの便に間に合わせるにはかなりのスピードでトランクに荷物を詰め込む必要がある。なにせ、残り2時間で任務の準備をして、ローマのレオナルド・ダ・ヴィンチ空港までたどり着かなくてはいけないのだから。
教皇は慌ただしい足音が聞こえなくなるまで耳を傾けていたが、ふぅ……、とため息を一つ吐き出すと、夜のサン・ピエトロ大広場にそびえ立つオベリスクを見つめて、呟いた。
「『――私がたずさえてきたのは安穏な平和ではなく、鋭い剣である』(マタイによる福音書 第10章)」
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