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「そりゃ……、なんでだろうな。」
「彦星様のことが好きならどんなことをしても会いたいはずだよね。川に邪魔されたって神様に邪魔されたって好きならそれが普通なはずなのに、好きだって伝えて付き合えたのになんでなのかな?」
少しずつ顔が暗くなっていく。なんでか知らんが胸がもやっとする。
「それは相手の気持ちをわかってるからじゃないか。」
「え?」
「川を渡るには危険が伴うだろ。渡りきっても神様に見つかって罰を与えられるかも知れない。織り姫は彦星が自分がそんなことをする事を望んでないってわかってるんじゃないか? たった1日だけだけどお互いがなんの苦もなく愛を感じれること。2人はそれを選んだんじゃないか?」
「でも、雨が降っちゃ会えないのに……。」
まだこいつは不満そうに呟く。
「そこは神様が気を利かせてくれるみたいだぜ。」
「?」
キョトンと俺を見るそいつに俺は指を天に向けて答える。
「我慢するだけ幸せは大きくなるのかも知れないな。」
「雲が……。」
光。一筋二筋と雲を厚い突き破って日光が町を照らす。
傘を畳み、河原を登る。
「ほら、帰るぞ。」
「私! 知ってるよ!」
突然叫び出す。風邪をひいてしまったのか顔が朱に染まっている。
「優しいとこ! 真面目なとこ! 努力家なとこ! 私! ずっと見てた!」
察する。こいつが何を言おうとしているのか。そして感じる。自分がどんな感情の中にあるのか。
そいつは強く一歩を踏み込もうとする。
「私は君のことが!?」
ズルッ
「きゃあああああっ!!」
草に足を取られ、轟々と音を立てる川へと一直線に滑っていく。
「たっ助け!」
「バカが。」
「へ?」
すでに走り出していた俺がそいつのちっこい手を掴む。それなりに危険な状況。あと30cmもすれば川に足がついてしまう。だが今の俺の目には入っていない。
「そうゆうのは男が言うもんだろうが。」
手を強く引き
「お前が好きだ!」
強く抱く。
「……うん! 私もずっと好きでした! 凄く嬉しいよ。」
お互いに強く抱き合う。
「ベックシ!」
「うげ!?」
「あ、ごめん。」
くしゃみをかけられ、冷静を取り戻す。
「とりあえず、帰ろうか。」
体を離し手をつなぐ。濡れた体に手の温もり。彼女の笑顔。
これなら今年の七夕も織り姫と彦星はきっと……
end
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