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大丈夫だ、言える。俺なら言える。
呪文のようにぶつぶつと何度も呟きながら両手を強く、硬く、握りしめ、
「……あ、あの!」
次いで、奥歯をぎりっと噛むと、思い切り頭を下げて、
「西村……いや、西村彩音さん! 中学の頃から好きでした! 俺とつきあってくださいっ!!」
いよっしゃぁぁあああ! 言えた、言えたあ!!
「ごめんなさい」
そのとき、俺の時が止まった。
刹那の間のあと、思考回路が蘇る。
ーーえ? え? 即答? 即答っすか!?
ちょっと待て、もしかしたら冗談とか……。
「ああ、あの西ーー」
「あ! もうこんな時間、桐島君、私門限あるから帰るね。それじゃ、また来年学校でね」
西村は俺の言葉に重ねるように言うと、笑顔で手を振りながら足早に公園を去って行った。
「冗談でもなかったーーーー!!」
その場にガックリと膝から崩れ落ちる俺。
ーー終わった。三年と数ヶ月の俺の初恋がたった一言で終わった。
「は、はは……はははは。だよな。こんな男前でもなくて地味で、取り柄が空手しかない奴、あの西村が相手するわけないよな。バカだな……俺は……ほんとに」
俺の渇いた笑いと自嘲する声が公園に響く。
強烈な目眩に視界が霞み、手が震える。
「…………帰る、か」
本当はこのまま倒れたかったが、無理矢理、体を起こし膝に付いた泥を落とすと、いつもより何倍にも重たく感じる足を踏み出す。
公園を出るとき、ふと西村が出て行った方を見る。
「いるわけ、ないか……」
俺は、自分だけに聞こえる声でそう言うと、ふらふらとおぼつかない足取りで家路についた。
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