00.淡桃クラブハイ

5/8
前へ
/8ページ
次へ
思わず声を荒らげてしまった事に気づいて、周りを見回す。 静かだった。 不気味なほどに。 放課後だってのに、運動部の威勢さえ聞こえない。 「冗談よ。部室で話しましょ!」 少女は何事も無かったように刃物を片付けると、僕に向き直りながら続ける。 「因みに、さっきのは全部嘘だからね。私、あんな馬鹿じゃないから」 「何で馬鹿を演じる必要があるんだよ」 という僕の問いに澹々(たんたん)と悪ふざけよ、と答えると、少女は部室のドアに向き直った。 今のところ信憑性は無い。多分に、少女は本当に馬鹿じゃないのか。今のは強がりじゃないか。 そんな事を考えているのが気づかれたのか、少女が急にまた僕に向き直る。 一瞬ビクついてしまった。 「欲情しないでよね。私、この部活で紅一点だから」 「知ってるよ。学校じゃいい噂なんだ」 あらそう、とこれまた澹々と切り返される。然程気にしているようにも見えなかった。 それと、と少女は続ける。 「貴方が気絶した理由、これよ」 少女が指差したのは、さっき僕が握りしめたドアノブ。 「パスワードを言う前にノブに触れると、自動的に電流が流れるようになってるの。気絶する程度よ」 股間辺りがムズムズした。 「ゾンビ万歳!!」 不意に目の前で少女が叫ぶ。流石に驚かずにはいられない。 「なんだよ!」 「パスワード、覚えといてね」 とだけいって、少女はドアノブに手を延ばした。 反射的に止めようとしたのだが、何事もないようにドアは開かれた。 「SF部へ、ようこそ!」 少女は無垢な笑みで僕を部室へ迎え入れた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加