第9章

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何曲か、自分のお気に入りの曲を弾いて、満足したところで遠くの方からソワソワしてる未央君が見えた。私はそこで切り上げて、カウンター席に戻って未央君にケーキ食べよっか?と聞く。 うん!と間髪入れずに返事をした未央君は、クリスマスソングを口ずさみながら奥へと消えていき、グラスを拭いていた相田君が、私にだけに聞こえる声で呟くように話しかけてきた。 「ゆーちゃん先輩はピアノ続けるの?」 「趣味では続けるけど、仕事にはしないかな」 「なんで、やっぱり勿体無いよ。」 「私より高い能力を持った人間はたくさんいるのよ。それに、私は待ってるから」 不意に出た、待ってるの言葉にだれを待つのよと自分に呆れていると、相田君は宮野家の長男のこと?と問いかける。 「よく知ってるね。まぁ、うちの大学内じゃ宮野と私のことは有名だからね当たり前か」 「ここ宮野先輩もいたんでしょ?ゆーちゃん先輩は宮野先輩の紹介だって」 「相田君だって、私の紹介じゃない。そうやってここのバーのピアニストは代々受け継いでいくのがいいのよ」 そういって多分ぎこちなく笑った私に、相田君は困ったように笑った。 「俺は、ゆーちゃん先輩の、本当の笑顔をいつか見たいっす。それを引き出せるのは、宮野先輩だけなんですよね…。ここに居ない人間に勝てる気しないっすよ」 奢りっすと差し出されたカクテルはロングランドアイスティーで、 カクテル言葉は希望。
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