背中と風

10/36
前へ
/83ページ
次へ
それからの吉田先生はガンガン俺のことをなじり始めた。 俺はこれじゃいけない、誤解を解かなきゃ! と思って、震えた声で 「俺じゃないんです!ヒグッ」 とやっと声を絞り出したんだ。 するといつも吉田先生にコバンザメみたいにくっついてはゴマすってる林田って名前のだいたい三十の教師が バァンっっ!! って机を叩いて 「もう遅ぇんだよ!!てめぇだろうが!」 とまるで敵兵を尋問するかのように威嚇に満ちた声を張り上げた。 俺の方は完全にびびちゃってた。 震え声でもう一回違いますと俺は言った。 目が泳いでしまう。 すると今度は林田は大きなため息つき 「じゃあなんでお前のロッカーから下着が沢山出てくんだよ、とんだマジックだな。」 林田が苦笑いしながら言う。 お前には呆れたよ、と暗に言っているのが分かった。 そんな俺は黙り込んでしまう。 そしてまたそこから沈黙が始まった。 その気まずい沈黙を破ったのは林田でも吉田先生でもない。 繊細で、少しかすれた爽やかな女性の声。 「本当に彼でしょうか?」 今年きた女の先生だった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加