勇者系【鬱話】2【僧侶の日記】

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どれほどの日が経ったのか、外が騒がしくなり、私たちは部屋から出され王の前へと引きずられるように連行された。 勇者の姿を見つけ、涙が溢れる。 だが、彼は憔悴しきっており、私たちを見てはくれない。 王から身柄の保釈を命じられた後、今までとは一転して豪華な部屋をあてがわれた。 部屋から出ようとしない勇者が気がかりだ。明日にでも話してみよう。 私たちは人であることすら許されないのか。 自国の王は支援を断った。 物価の安い自国と、物価の高いこの国とでは財布の中身すら天と地の差らしい。 それでも勇者は必死に支援を申し出、断られ、温情を申し出、断られ、幾度も幾度もこの国と自国を行き来した。 そして出された妥協案。 僧侶、魔法使いの二人の身柄を売り渡す事。 魔法が盛んなこの国では、私たちの存在は貴重らしい。 今後、定期的な魔物や魔法に関する資料の提出。及び、冒険が終わった際の身柄の所有権がこの国の出した条件であり、自国の王はその条件を飲んだ。 彼らにとって、私たちなど物でしかない事を理解した。 誰を恨めばいいのか。何を恨めばいいのか。 物に何かを恨む権利など無いのか。 大量の物資を譲り受け、国を挙げてのパレード。 出立する私たちがここまでの扱いを受けたのは初めてかもしれない。 みんな、張り付いたような笑顔で民衆に手を振っている。 国を出ると、それまで笑顔だった王の兵たちは私たちを見もせずに引き返して行った。 私たちも彼らを見送ることなく、国を後にした。
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