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人間は予想していなかったモノを見ると、一瞬思考が止まる。
まず車内に入って目に飛び込んで来たのは、
まったく同じギンガムチェックのシャツ、同じスラックス、同じ靴、同じ髪型(頭頂ハゲ)、同じ姿勢で座る、
同じ顔の双子の中年のオッサンだった。
カズヤも絶句していた様子だった。
いや、別にこういう双子が居てもおかしくはない。
おかしくもないし悪くもないのだが…あの異様な雰囲気は、実際その場で目にしてみないと伝えられない。
「早く座って」と父に言われるがまま、俺たちはその家族の雰囲気に呑まれるかの様に、車内に腰を下ろした。
まず俺達は家族に挨拶をし、父が運転をしながら、自分の家族の簡単な説明を始めた。
母が助手席で前を見て座っている時は良く分からなかったが、母も異様だった。
ウェディングドレスのような真っ白なサマーワンピース。
顔のメイクは、バカ殿かと見まがうほどの白粉ベタ塗り。
極めつけは母の名前で、『聖(セント)ジョセフィーヌ』。
ちなみに父は、『聖(セント)ジョージ』と言うらしい。
双子にも言葉を失った。名前が『赤』と『青』と言うらしいのだ。
赤ら顔のオッサンは『赤』で、ほっぺたに青痣があるオッサンは『青』。
普通、自分の子供にこんな名前をつけるだろうか?
俺達はこの時点で目配せをし、適当な所で早く降ろしてもらう決意をしていた。狂っている。
俺達には主に父と母が話しかけて来て、俺達も気もそぞれで適当な答えをしていた。
双子はまったく喋らず、まったく同じ姿勢、同じペースでコーラのペットボトルをラッパ飲みしていた。
ゲップまで同じタイミングで出された時は筋が凍り、もう限界だと思った。
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