勇者系【鬱話】2【僧侶の日記】

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何処でも監視の目が光っている。 精神的な疲労が溜まり、常に身体がだるい。 勇者が街からの脱走を提案した。 これだけの監視の中、気付かれずに逃げる事は無理だという事はわかっている。 逃げれば罪人の烙印を押される事もわかっている。 それでも誰も反対しなかった。 どうせ、私達はとっくに罪人なのだから。 必要最低限の荷物をまとめ、深夜に逃げるように宿を飛び出した。 監視者に見つかったのか、すぐさま街中に鐘の音が響き渡る。 怒号と悲鳴が響き渡る中、私達は走り抜けた。 途中、家の中から怯えた目でこちらを見つめる、赤ん坊を抱いていた母親を目の端に捉えた。 きっと彼女は、自分の子を英雄にしようなどとは思わないはずだ。 どうかその子が、普通の人生を歩みますように。 食料も水も僅かしか持ち出せず、馬車も無い。 それなのに、どうしてこんなに晴れ晴れとした気分なのだろう。 この夜空がとても綺麗だからかもしれない。 今日は昨日よりよく眠れそうだ。 この国に長く留まるのは危険な為、隣国へと急ぐ。 隣国は海に近いと聞いて、思わず心が踊る。 おとぎ話に聞いた巨大な湖をこの目で見られるのだ。 海は、この身に溜まる罪を洗い流してくれるのだろうか。
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