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緑の萌える5月下旬。
東都防衛学院ではこの時期にしては暑いくらいの晴れ渡った空のもと、いつも通り授業が行なわれていた。
中等部2年2組の5時限目の体育は長距離走。
訓練着のインナーに身を包んだ女子生徒たちが校庭のトラックを走っている。
橘和美(カズミ)は、そのトップを走っていた。
ラスト一周だというのに、カズミは後続のランナーたちを引き離せずにいた。
はじめの一年はカズミの独走状態だったのに、厳しい訓練をこなしてきた同級生たちはしだいに体力をつけはじめていた。
負けるわけにはいかない――
カズミは限界に近い身体に鞭打ち、ラストスパートをかける。
徐々に背後の気配が消えていくのを感じた。
そのハイペースのままゴールした。
カズミはいまにも膝が崩れ落ちそうなのをこらえて、すぐさま背後を振り向く。
まだカズミ以外誰もゴールしていない。
やった。
「橘、4分50秒――」
教官がタイムを読み上げる声が聞こえた。
それを確認すると、気が抜けたのか足にドッと疲れを感じた。
膝に手を置き、前傾姿勢の状態で呼吸を整える。
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