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《「止めて、来ないで!」
少女はナニカから逃げるように月明かりに照らされた廊下を駆け抜ける。
それを、ゆらりゆらりと追い掛ける黒い塊。
「きゃあぁぁぁっ!」
突如、首筋に冷たい感触を感じ、少女は短い悲鳴をあげると目の前の『女子・お手洗』と印された扉を勢いよく開け、一番奥の個室へ飛び込む。
「はっ、はっ、はぁぁっ……」
荒くも押し殺したような吐息が室内に響く中―――
キィ……
「!!」
少女は扉の開く音と入れ代わるように息を潜める。
コツ、コツ……キィ…………キィィ……
足音と、個室の扉を開き、閉めるリズミカルな音だけが室内を占領する。
コツ、コツ……キィ……キィィ……
音は段々と少女に近付いていく。
コツ、コツ……キィ……キィィ……
少女は、もう止めてもう止めてもう止めてもう止めてもう止めて、と頭の中で何度も何度も反芻する。
キィ……キィィ……
…………
……
祈りが届いたのか、音の代わりに沈黙が室内を支配した。
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