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言葉は届かない。
僕の言葉は全て。
「宵(よい)というのです。宵の始めに逢っていましたから」
天は気怠るそうな瞳で僕を見上げた。
「綺麗でしょう」
「………あぁ」
「宵。言葉が、あぁ、言葉が聞こえません……」
そう、天には聞こえないのだ。
そもそもにおいて僕らは顕現して話していた。聞こえないのは普通のこと。
しかもいきなり力を使った天は衰えた。
僕らは言葉を重ねることができない。
「天」
「あぁ、宵さま。聞こえません。何と哀しいのでしょう?あぁ、あぁ!」
「天」
「穏やかな声を聞きたいのです……」
「天……!」
血に染まった袂を握り締めて天は泣いていた。
片手で覆う目元から光る雫が零れた。
いくつもの雫は豪奢(ごうしゃ)な衣を濡らしていった。
「もうすぐ死んでしまうのでしょうか」
「天」
「聞こえなくば、それもいいかもしれない」
「天!」
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