――止まったまま――

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激しく声を荒げても返答は返らない。 無邪気に笑うことができなくなった『おとな』がいた。 だから天は力なく微笑んだ。 目元を押さえつつ大きく息を吸った天が死に急ぐ。 「――天?」 やがて手を離す天の瞳から泪(なみだ)が溢れている。 手を伸ばしても通り抜ける。 なんと無力な。 「幸せでした。話す時間は、とても」 さようなら。 「待て、天」 さようなら、宵。 「夏の夜に会いましょう、――宵」 天が喋るために力を使いその分早く息絶えたのは分かっていた。 きんきんとした甲高い声が途切れ途切れに聞こえる。 「探しなさい」、あれが妹か。 そして僕は天の血と泪にまみれた死体を眺めて泪が溢れた。 * ――この後、僕らはまた会う。 次も、その次も。 小さな天の秘密をわざと開けずに。
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