――止まったまま――

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赤を紺が潰していく。 「祠さまとずっと語り合っていたかったのに」 天はふ、と自然に笑った。 叶いはしない願いを人は抱く。 それを天に強要する。 彼女も願っている。 人をやめたいと。 「何時も祠さまと会うのは宵の口ですね」 祠さまというのは何だか侘しい(わびしい)ですね。 天は言った。 「名を考えておきます」 微笑む天の輪郭(りんかく)は夕焼け色に染まっていた。 「名……?」 僕が不思議になって呟く。 祠さまと天に呼んで貰うだけで胸には温かいものが沸くというのに。 更に個人を作って貰うのは嬉しい限りだ。 「祠さまらしい、綺麗な名です」 立ち上がった天は土も払わずにまた笑った。 「祠さま。私は作り笑いが得意になりました」 淋しいですか? 「人は必ず、それを習得するのか?」 天、素直を出せばいいだろう? 首を振った天。 「私だけですよ」 あぁ、孤独です。
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