0人が本棚に入れています
本棚に追加
ディノレイヴンを倒した俺、勇者ティモリアと“魔女”アマルティアは徒歩でスフェンダミ王国まで移動した。結局アマルティアは俺の説得に折れたのだ。ここはロトスという街だ。ディノレイヴンの襲撃によって命を落としたスフェンダミの騎士ダルディムはここに住んでおり、この街から俺をオブスクランス城まで送ってくれたのだ。
ダルディムの遺体はこの街の警備兵拠点へと届けた。数日後に葬儀を執り行うそうだ。
「勇者殿……。ダルディムのことは気に病む必要はございません。あやつも騎士です。死は覚悟のうえでしたでしょう」
「いや、これは私の責任だリゲル准将。勇者である私がついておきながら……」
この体格の良い黒髪の男はこの拠点の責任者、リゲル・クラディ。スフェンダミ王国軍の准将だ。ダルディムは大佐だから、リゲルはダルディムよりひとつ上の階級ということになる。
「仲間の死には慣れております。今は隣国イデオフィイアと小競り合いが続いているのですから。この拠点の騎士が敵地に遠征に行くことなどしょっちゅうなのです」
リゲル准将は死んだ仲間達を思い返すように遠い目をして、それからまた口を開いた。
「勇者殿、今夜の宿はお決まりですかな」
「ああ、すでに宿をとってある」
「そうでしたか。もし決まっていないのならこちらで手配しようと思っていたのですが不要でしたな」
「気を遣わせてすまない。……時間を使いすぎたな。私はこれで失礼する」
堅苦しい言葉づかいと態度に限界を感じた俺はそそくさと拠点を出た。向かう先は先ほどとっておいた宿。アマルティアを待たせているのだ。
「遅いわよティモリア」
「そう言うなよ。准将にも話をしとかなきゃならなかったんだから」
時刻は夜も良いところ。空には星が広がっている。腹も空く時間だ。そうでなくとも俺達は長い距離を歩いてきたのだから。
「じゃあ飯食いに行こうぜ、ティア」
「ええ。それより、街に着いてからずっとその呼び方ね。他に誰がいる訳でもないのに」
つまらなそうに口を尖らせるアマルティアもといティアに俺は声をひそめて言葉を返す。
「誰が聞いてるか分からないからな。どこに耳があるかなんて分からないもんだぜ?」
「……そうね。さ、食堂に行きましょう。早くホットケーキが食べたいわ」
「何だよ開き直ったのか」
最初のコメントを投稿しよう!