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え? と目を丸くするアマルティア。
「甘いものが好きなのは恥ずかしいつってたろ」
「ああ、そのことね。事実を隠しても仕方ないし、あなたにはもう知られてしまっていることだから」
「その感覚わかんねーわ。俺がおかしいのか?」
「多分わたしが変なのよ。……人間じゃないから」
彼女が小さく吐き捨てたその言葉に、俺は何も返せなかった。単に否定してもダメだと思った。そんな否定では軽すぎる。彼女が人間でないのは事実なのだから。
「ホットケーキ、食いに行こうぜティア」
「ええ。楽しみだわ」
弾む声。アマルティアは笑顔だった。てっきり暗くなっていると思ったが……。
実は言うほど気にしていないのか?
「にしてもよ。お前、馬車に乗せられただけでオロオロしてたわりには宿じゃ普通だな」
宿は2階建てで、1階部分には食堂がある。その食堂で食事を摂っていた俺はふと思い付いた話をする。ダルディムの馬車に乗った時は迷惑ではないかと心配したり、そもそも人と話すことが苦手なアマルティアが宿に来てからは不自然なくらいに自然なのだ。
「それはそうよ。ここは宿なんでしょう? 宿泊費という形でお金を支払って、それと引き替えに部屋を借りているのだから何も恥ずかしがることはないわ。堂々としていればいいのよ」
宿やら金の仕組みの知識をどこで得たのかという疑問は今は放っておくことにするが、アマルティアの考え方はどうにも理解に苦しむ。要するに当然の権利なのだから何も気にすることはない、というある意味シビアな考えなのだろうが。
「その考え方なら、今ティアの食べてるかなり値の張るステーキも、金を払っているから心おきなく口にできるのか」
「ええ、そうよ。しっかりと代償を払っているのだから」
何となくわかってきた。馬車の時はタダで乗せられたから慌てたのだろう。アマルティアは人と人の関わりは常にギブアンドテイクだと考えているのだ。そこに会話が苦手という要素が組み込まれることによって一見複雑な思考のように見えたということだろう。堅くてシンプルな考えを持った“魔女”がアマルティアなのだ。
だけどな、ティア。お前の食ってるそのバカ高いステーキ──。
「誰の金で食ってんだよ」
「もちろんあなたよティモリア。わたしを無理矢理連れ出したのだからそのくらい当然よ」
なるほど。つまりギブアンドテイクか。納得いかん。
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