第2章 メイプルシロップの国

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「ティモリア、今すぐその店に行くわよ」 「いやステーキどうすんだよ!? 食いかけだろ! もったいないだろ高いのに!」 この“魔女”は……。 俺が金欠だというのにアホのような値段のステーキを注文したと思ったら半分も食わないうちに席を立とうとするとは何を考えているのだ。 「それにもう夜も遅いし、今から行っても閉店しちまうって」 「…………仕方ないわね」 アマルティアはおとなしく席に戻ってくれた。 「ホットケーキは明日にしようぜ。な?」 「ええ、専門店のホットケーキは明日の楽しみとしておくわ。それよりティモリア」 「あん?」 「あなた、なんで兜(カブト)を被ったままなの? こんなところでまで魔物の襲撃を警戒しているのかしら?」 「は? 兜?」 言われて俺は手を頭に置く。冷たく硬い感触。俺は兜を脱ぎ忘れていたのだ。ということは俺は完全装備のまま食事をしていたのか……。 「うわ、俺恥ずかし。もっと早く言えよティア」 「そう言うあなたも専門店のことを今の今まで黙っていたじゃない」 「あー、それは悪かったって」 このまま食事をするのは嫌なので俺は兜を脱ぐ。 兜を被ることに慣れていても、蒸れるしかゆい。いつまでたってもこれには慣れない。 「あら、銀髪なのねあなた」 「おう。あ、言っとくけど魔法で染めてるワケじゃねーぞ?」 見るからにアホなチンピラはたまに魔法を使って髪を派手な色に染めていることがあるが、俺の銀髪は生まれつきだ。 「銀髪なのはいいけど、その髪型似合っていないわ」 「え、マジか」 「ええ、長すぎるわ」 気に入ってたんだけどな……。 「それよりティモリア。ステーキも食べ終わったことだし──」 ステーキを食べていたのはアマルティアだけなのだが。俺が食したのは魚料理だ。 「デザートにホットケーキを食べましょう」 「……ホットケーキ?」 ホットケーキは明日食べることになっていたはずだ。俺の会話的感覚に狂いが無ければ、今のアマルティアの発言はこの店でホットケーキを食べたいと言っているように感じる。 「ここのホットケーキ食うのか?」 「そうよ。何故そんなことを訊くの?」
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