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「街歩くついでにこれ売るかな。ダサいし」
「何の話?」
「あ、いや、独り言のつもりだったんだけどな。この兜(カブト)、ダサいし邪魔だし売っちまおうかなって」
「そんなにおかしな形ではないと思うのだけれど。でも確かにティモリアくらい強かったら兜なんていらないわね」
皮肉るように言うアマルティア。どうせ俺にのされた時のことを思い出しているのだろう。
「もういっそ鎧をすべて売り払ってしまえばいいのよ。身軽になるわよ?」
「身軽って……。勇者なのに鎧着てないなんてありえねーだろ」
勇者は“魔女”を倒すための戦士。戦士といったら騎士だ。騎士は鎧を身に纏って(マトッテ)いるのが相場。この鎧は勇者を含む戦士のトレードマークなのだ。もちろん鎧を着ていない戦士もいるが。
トレードマークといっても俺は荷物を増やしたくないから鎧を着ているというのもある。単純な造りだから着脱が楽で、普段着感覚で身に纏っている。
「でもあなた、髪も銀、鎧も銀、剣も銀で色が単調なのよ」
「ティアには言われたくねーよ。髪も黒、服も黒で全身真っ黒じゃねーか」
アマルティアの服装はレースのついたひらひらのドレスに黒いヒール。ドレスは薄手だが色が色なので暑苦しいのだ。
「うるさいわね。有無を言わさず城から連れ出したくせに」
「ティアがオロオロしてるだけで動く気が無さそうだったからだ」
「あなたが突拍子も無いことを言うからでしょう!?」
「突拍子も無いことって何だよっ!?」
人目をはばからず、往来のど真ん中で始まる口喧嘩。
本気の喧嘩ではないがお互いの口から罵詈雑言の嵐が飛び出ることになり、声が大きかったこともあり俺達は注目の的になってしまっている。
「あー! もううるさいわね! わたしはあなたのせいで着替えも持ってきてないのよ!?」
「んなこと知……」
よくよく考えるとそれはマズい。アマルティアは寝間着も持ってきていないのだから、昨日の夜寝るときも着替えていないはずだ。
「あの、ティア?」
「何よ!」
「いや、なんつーか、服買いに行かね?」
アマルティアはきょとんとした顔になった。
「……服? わたしの?」
「あ、おう。その1着しか無いと困るだろ」
「確かにその通りね。いいわ、買いに行きましょう」
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