0人が本棚に入れています
本棚に追加
「近くに服屋があるからそこに行こうぜ」
「ええ」
簡単に話はまとまり、俺とアマルティアは服屋へと向かう道を歩き始めた。
「ねえ、聞いた奥さん? あの2人のケンカ」
「ええ聞きましたとも。着替えも持たせずに連れ出すなんて……」
「不潔ね、あの銀髪の男は」
背後でヒソヒソと話をする住人達に気付くことなく。
「それでどんな服を買ってくれるのかしら」
意気揚々としたアマルティアの声。
「え、俺が選ぶのか?」
対して素っ頓狂(スットンキョウ)な俺の声。
「選んでくれないの?」
「選んで欲しいのかよ?」
「質問に質問で返さないで」
「…………」
もしかするとアマルティアは単に服を買いにいくだけなのにデートか何かと勘違いしているのかもしれない。
「分かった。選んでやるから文句言うなよ」
「保証はできないわ。文句を言われるのが嫌なら、わたし好みの可愛い服を選びなさい」
なんでこいつこんなに偉そうなんだろう。
服屋は意外と近く、数分で到着した。実は服がそのまま服の形で売られている店は思いのほか少ない。本来は布屋で購入した布を使って自分で服を作ったり、仕立屋で仕立ててもらったりするのだ。
「これなんてどうだ?」
と俺がアマルティアに見せたのは紺色のワンピース。さすがに普段着がドレスというのは目立ちすぎるから却下だが、アマルティアも女だ。3日後から徒歩の旅とはいえお洒落をしたいだろう。
「ワンピースというのは良いけど、それじゃ地味じゃないかしら」
「ごもっともだけど、これから街を出るってことを考えてくれよ。派手な装飾がついてたら動きづらいだろ。それに紺色なら汚れも目立たないし」
王家の森までの道中、魔物による襲撃は多々あるだろう。無駄にヒラヒラな服や丈の長すぎるスカートでは転倒する可能性もあり危険だ。
「実用性を考えてくれるのはありがたいけど、さすがにこれは嫌よ」
「む、そうか。となるとあれはどうだ?」
俺が指さした黄色い服を見て、アマルティアはまたも首を横に振る。
「わたしの趣味じゃないわね。緑とか黄色は好きじゃないのよ」
「やっぱり黒が好きなのか?」
「そうね。黒も好きだし、白も好きよ。でもピンクや水色も捨てがたいわ」
最初のコメントを投稿しよう!