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「うっ、く……わ、わたしが……人間なんかに、負けるなんて……」
旅の終着点、オブスクランス城。その最上階。
苦しみに悶えながら“彼女”は呟いた。
「なんで……。どうして人間がそんな力を…………」
「あんたからの贈り物。あんたが世界にバラまいた“魔”は俺達人間にも力を与えたんだ」
「わたしの“魔”が……?」
“彼女”は床にひれ伏したまま俺に問いかける。
「“魔を統べる者”、“魔女”、“闇の化身”……。そんな風に呼ばれるあんたのバラまいた“魔”は世界中に魔物を生んだ。憎しみに溺れる獣を」
「……そうよ。“魔”は今やわたしの憎しみそのものだから。でもそれがどうしたの?」
「強い憎しみは強い力だ。世界中に力が満ちていればその力を借りることができる」
「毒をもって毒を制すってことかしら?」
「まあ、そういうこと。あんたの憎しみの力を、自分の力にして、魔法として使えば人間以上の力で戦えるんだよ。……あんたは自分の力に負けたんだ」
「……滑稽ね、わたし。惨めだし、愚かだし…………」
自嘲気味に笑いながら、“彼女”は涙を流しだした。時折、嗚咽が聞こえてくる。
「グスッ……うっ…………っ……」
「………………。負けたかったんだろ、ホントは」
「……っ…………グスッ……」
俺の言葉なんて聞いてないかもしれない。“彼女”はただ泣いているだけだった。
「苦しかったんだろ。止めてほしかったんだろ」
返事は無い。構わずに続ける。
この城を目指す者はすべからく“彼女”を倒すことを目的としているが、俺がこの城に来たのは“彼女”を殺すためではない。
「もう、傷つけたくなかったんだよな。いちばんつらかったのは、あんただもんな」
「……ぐすっ…………うん……。怖かった………………」
その答えを聞いて、俺は“彼女”の目の前にしゃがみ込んだ。す、と手を差し出す。
「立てよ。俺はあんたを連れ出しに来たんだ」
「……え?」
「城の外に出たことないだろあんた。外は楽しいぞ。俺が連れてってやるよ」
「ちょっと、どういう──」
戸惑うばかりで立つ気が無いようなので俺は“彼女”の手を引っ張って強引に立ち上がらせる。
「だから俺についてこいよ、アマルティア」
旅の終わりは、新たな旅の始まりだ。
俺はアマルティアに世界を見せる旅に出た。
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