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「綺麗……」
“魔女”アマルティアは青空を仰いで呟いた。城の外で空を見るのは初めてだったのだろう。
「そういえば、まだ名前を訊いていないわ」
ふと気付いたように丸い瞳を俺に向けるアマルティア。
「ああ、俺の名前? ……ティモリアだ」
「あら、皮肉のつもりかしら。ティモリアは罰って意味よね? わたしはあなたの本名を訊いたつもりなのだけど」
「俺の本名が知りたいなら、あんたも教えてくれよ。アマルティアは罪っつー意味だろ」
「本名なんて無いわ。いえ、捨てたの。だからアマルティアと呼んで」
「なら俺のこともティモリアって呼んでくれ。いいじゃんか、罪と罰のコンビ」
「ティモリア……あなたってやっぱり皮肉屋さんなのね」
城の外をふたりで歩く。
ついさっき俺はアマルティアをボコボコにしたはずだが、彼女はもう元気になっている。疲れすらも感じない。
「勇者は案外根暗なんだよ」
「“魔を統べる者”を殺さずに外に連れ出す勇者がいるのかしらね」
「ここにいるのがその勇者だ。それに、あんたを連れてきたのにはちゃんと意味がある」
「何のこと?」
「さあ? 何だろうな?」
「………………」
アマルティアは不服そうに顔をしかめる。
「……意味が分からないわ」
「今は、分からなくていい。ただ俺についてこい」
むすっとした表情で俺を睨むアマルティアはとても“魔女”には見えない。どこにでもいる少女だ。むしろ、その艶やかな黒髪や雪のように白くきめ細かい肌を羨ましがる女は少なくないのではないだろうか。
「勇者殿……? お戻りになられたのですか!? “魔を統べる者”を倒したのですか!?」
叫んだのは俺のとは違う甲冑を着た男だ。近くの街から俺をここまで送ってくれたダルディムという騎士である。
城から少し離れた林に、隠すように止めてある馬車の中にいたダルディムは俺の姿に気付くと馬車から降りてきた。
「そんなに叫ぶな。疲れているのだ。“魔女”アマルティアを倒したのだからな」
ある程度近付いてから俺は口を開いた。
「も、申し訳ありません。それにしてもめでたい。あのアマルティアを…………。して、勇者殿? そちらの方は……」
「わ、わたしは……」
「彼女はティアだ。城に捕らわれていた」
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