第一話 第一章・始まりは突然に

2/4
3098人が本棚に入れています
本棚に追加
/652ページ
 ここはとある地方都市に住む青年の部屋。朝を告げる陽光がカーテンの隙間から零れ、青年の意識の覚醒を促す。 「ん……はっ!? ヤバイ! 寝落ちした!」  青年の枕元には、バッテリーが切れてご臨終となった某折りたたみ型二画面のゲーム機がある。  青年は最近発売された『特殊なボールでモンスターを捕獲するゲーム』に夢中になっており、今夜は夜通しオールでも構わないという意気込みを見せていたが、結果はご覧の通りである。しかし夜更かししていた為か、寝落ちしたにも関わらず青年の瞼はまるで鉛のように重い。 「聡史ー、ご飯よー!」 「はーい、今行くよー……ふわぁ」  母親の朝ごはん出来たよコールに答え、欠伸をかみ殺しつつ青年は寝巻きから制服に着替える。  昨日眠れなかった分は学校で取り返せば良いという不埒な事を考えつつも、着替えを終えた青年――聡史は、ゲーム機に充電コードを差し込むと、階段を下りて二階から一階のリビングへと下りていく。 「母さんおはよう」 「おはよう。って、あらあら。今日は一段と眠たそうな顔してるわね」 「聡史、学校で寝たりするなよ?」 「父さん、言われなくても分かってるよ」  挨拶を交わし、聡史はリビングにある食卓につく。すると母親が聡史の目の前にホカホカのご飯と味噌汁を置いた。 「いただきます」  手を合わせると、聡史は箸立てから自分の箸を抜き取り、ご飯と味噌汁を食べ始める。途中テーブルに置かれている鶏の容器に入ったのりたまをご飯にふりかけ、綺麗に平らげた。  ちなみに父親はコーヒー片手に新聞を読んでおり、皿の上には一口かじっただけのトーストが乗っている。母親は聡史の寝巻きを洗濯機に放り込む為に二階に上がったので、リビングには居ない。 「ごちそうさま」  両手を合わせて食べ物への感謝を済ませると、聡史は眠気を吹きとばす意味も込めて洗面所に行き、洗顔と歯磨きを済ませ、再び二階に上がって鞄を引っ掴むと「行ってきます」と言って家を出るのであった。 「ふわぁ……眠い」  自分の意思とは無関係に出てくる欠伸を隠す事もせず、聡史は通学路を歩いていた。  ふと周囲の家々を見回すと、解体してしまうのが面倒くさいのか、時期を過ぎた鯉のぼりがちらほらと見受けられる。まあ一年ぶりに倉庫等から出られたんだし、後二日か三日ぐらいは空を泳いでいたいのかもしれないな、と聡史は考える。
/652ページ

最初のコメントを投稿しよう!