第一章

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次の瞬間、雪よりも冷たく光るものが音もなくスッと突き付けられる。 「あ……」 刃だった。もうひとり、同じ羽織姿の男がいたのだ。 きっとこの男が残りの狂気の男を倒したに違いない。 「いいか、逃げるなよ。背を向ければ、斬る」 「……!」 雪を散らす風が小路を吹き抜ける。 すっくと立つ男の、漆黒の髪が空に舞う。 透けて見える月の光はひらひらと散る桜の花びらにも似て、美しい命の最期の瞬間を舞っているかに見える。 強い視線で千鶴を射すくめるその男はまるで――、狂い咲きの桜のようだった。 圧倒的な恐怖のなかで、刻が動きを止めてしまう。 こちらをじっと見つめている鋭い、だか涼やかな瞳と、吸い付くような冷たい刀身―――――― どちらに命を奪われるのか、一瞬の混乱にくらりとする。 雪が舞う。 目をそらせない。 自分でも気づかないうちに千鶴は、こくんと頷いていた。 「副長、死体の処理は如何様に?」 「羽織だけ脱がせておけ。後は監察に処理させる」 男が斎藤に応えた。 ふたりとももう、千鶴には目もくれない。 「それより、どうするんです?この子」 細身の若者が千鶴のほうに顎をしゃくって問うと、再び男は射すくめるように千鶴を見た。 (……こ、殺される……) 千鶴はわなわなと震える手で必死に小太刀を掴む。 が、わずかな間を置いて、 「屯所に連れていく」 男は素っ気なく吐き捨てた。 「あれ?始末しなくていいんですか?さっきの、見ちゃったんですよ?」 「そいつの処遇は、帰ってから決める」 助かった、と安堵すると同時に、緊張の糸が一気に解ける。 千鶴の意識は途切れ、そのまま前のめりに倒れていく――。 「……運のない奴だ」 冷たく呟く男の言葉はもう耳に入らなかった。
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