6人が本棚に入れています
本棚に追加
「あーあ、残念だな……」
と、そのとき、辻からひとりの若者が姿を現した。
細身で、無造作に結った髪がところどころぼさぼさと跳ねている。
「僕ひとりで始末しちゃうつもりだったのに。斎藤君、こんなときに限って仕事が速いよね」
言いながら、彼は千鶴に向かってニッと笑いかけた。
斎藤君、と呼ばれた若者は白い髪の男から引き抜いた刀をひと振りし、鞘に納める。
漆喰塀(しつくいべい)に血糊がとんだが、いまさら驚くほどでもない。
あたりはすでに血の海だ。
「俺は務めを果たすべく動いたまでだ……」
白い襟巻きを巻いた斎藤と細身の若者が、やはり浅葱色の羽織をみにまとっているのを目にした千鶴は、ようやくそれが何を意味しているのかに気づく。
(まさか、この羽織――!?)
そのとき、ゆっくりと雲が流れた。
顔を出した月の青白い光に、あたりがきらきらと輝く。
逃げるのに必死で気づかなかったが、雪が舞っていたのだ。
冷たい汗だと思ったのも、もしかしたら雪だったのかもしれない、と千鶴は思った。
最初のコメントを投稿しよう!