第一章

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「あーあ、残念だな……」 と、そのとき、辻からひとりの若者が姿を現した。 細身で、無造作に結った髪がところどころぼさぼさと跳ねている。 「僕ひとりで始末しちゃうつもりだったのに。斎藤君、こんなときに限って仕事が速いよね」 言いながら、彼は千鶴に向かってニッと笑いかけた。 斎藤君、と呼ばれた若者は白い髪の男から引き抜いた刀をひと振りし、鞘に納める。 漆喰塀(しつくいべい)に血糊がとんだが、いまさら驚くほどでもない。 あたりはすでに血の海だ。 「俺は務めを果たすべく動いたまでだ……」 白い襟巻きを巻いた斎藤と細身の若者が、やはり浅葱色の羽織をみにまとっているのを目にした千鶴は、ようやくそれが何を意味しているのかに気づく。 (まさか、この羽織――!?) そのとき、ゆっくりと雲が流れた。 顔を出した月の青白い光に、あたりがきらきらと輝く。 逃げるのに必死で気づかなかったが、雪が舞っていたのだ。 冷たい汗だと思ったのも、もしかしたら雪だったのかもしれない、と千鶴は思った。
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