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…………
『小夜子のばか小夜子のばか小夜子のばか…………』
小夜子があんなこというから、頭から離れないじゃんかっ。
もう、どーしよ…………
ざわめく改札口の端で、私は頭を抱えていた。
『森下?』
いつの間に改札を出てきたのか、岸田くんが私の前に立っていた。
『わ、岸田くんっ』
目の前に来たのに、すぐに気付かなかったのは私がずっと考え込んでいたから。
『なに、小夜子のばかって呪文みたいに唱えてたけど、ケンカでもしたの?』
少し屈んで私を覗きこむように首を傾けた。
『そ、そう……。さ、さささ小夜子が岸田くんとデートだ!!とか言うから………なんか…緊張しちゃって。あはは…………そんなんじゃないのに、ねっ??』
へらっといつもの調子で笑う私。
黙る岸田くん。
『…………』
岸田くん、何故か首の後ろに手を当てて、視線は右上見てる…………
『あ、変なこと言っちゃった…………かな……ほらっ、馬鹿だなーって突っ込んでよ……』
軽く肩を叩こうとした私の手首を掴む、岸田くん。
『デートだよ』
『へ?』
こほ、と咳をしながら、少し照れくさそうに私を見下ろす。
『ご飯デート』
『き、岸田く……?』
すぐに理解できなくて、まだハテナが飛び回る。
『ご飯食べよ。レイトショーだけど、森下が見たいって言ってた映画のチケットもあったりする。帰りはちゃんと送るから』
手首から、手を握って、歩き始めた岸田くん。
デートだよ?
私が見たかった映画も見よ?
帰りはちゃんと送るから?
デート、なんだ…………。
真っ赤になった私は、私の手を握る岸田くんの手を見つめていた。
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