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『今日はありがとう』
アパートの前に着いて、優しく笑う岸田くん。
そっと頭を撫でられた。
『私こそ、ごちそうさま』
『土曜日、入ってるよな?』
『うん、シフト一緒だね。岸田くんと入る時って、1番楽しい。前と変わらず、やりやすいし勉強になるの』
『…………2年、空いてたのかな、本当に。2年前のあの日からの延長にしか思えないんだよ』
少し黙って、再び口を開いた岸田くんの手に力が篭る。
私を見つめる岸田くんの真剣な顔に、何故か何も言えなくなった。
『オーストラリアなんか行かないで、ずっと日本にいたらどうなってたかな、俺達』
『……き…しだくん……?』
『オレ、森下のこと…可愛いって思ってるよ。ずっと前から。もちろん女の子として』
『………』
ずっと、前…………からって…
『2年前、バイト帰りのあの公園で相談した時、言いたかった。でも、言っても、オレ日本から離れるのにって思って言えなかった…。だから、やっと今言える』
『好きだよ、森下のこと』
それはとてもとても、シンプルな言葉だった。
2年前に私に言おうとしてくれていた、言葉。
2年越しの、好き。
深夜の静寂の中、響いた言葉。
『森下は鈍感だな。やっぱり言わないと気付いてくんない』
何も言えない私の頭をくしゃくしゃ撫でて、はははと笑う。
『ずっと言いたかった。やっと言えた』
はー、っと大きなため息をついた岸田くんは達成感を感じているようだった。
『返事はまたでいーよ。森下、面白いくらいすっげー混乱してるし。じゃあ、また土曜な』
私は口をロックされてしまったように何にも言えないまま。
手を振って、去っていく岸田くんの背中をただ見つめていた。
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