嵐を呼ぶ山田

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その問いに、朔夜は咄嗟に声を出せなかった。 口を開いてみても、喉が掠れた呼気音をたてるのみで、言葉にならない。 「…………あ、おれ、は」 漸く声が出たかと思えば、言葉はそれ以上続かなかった。 心中をぐるぐると激情が渦巻いて今にも溢れてしまいそうなのに、固く取り付けられた堰のせいで外に出てこない。 朔夜は混沌の只中にあった。 「……ほんと、最低だね」 そんな朔夜を見下げ果てたように吐き捨て、ユウヤは拳を振り上げた。その拳のすぐ目の前に、何やら金色の輝きを放つ魔方陣らしきものが浮かび上がる。 「ユウヤ、やめ―――――」 「じゃあね、勇者サマ」 メフィストが慌てて制止の声をかけるのと同時に、ユウヤは拳を降り下ろした。 朔夜は、ただ呆然と迫り来る拳を見詰める。 その瞳に映る景色が魔方陣の輝きでいっぱいになり、そして―――――
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